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大阪フィル第504回定期演奏会 フルシャ指揮 Pf:河村尚子 [コンサート感想]

大阪フィルハーモニー交響楽団 第504回定期演奏会(1日目)

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番ト長調
ショスタコーヴィチ/交響曲第10番ホ短調

指揮:ヤクブ・フルシャ
ピアノ独奏:河村尚子
コンサートマスター:田野倉雅秋

2016年12月8日 フェスティバルホール
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 会場の入りは大阪交響楽団定期(ザ・シンフォニーH)と重なったこともあってか、65%ぐらいの入りだったでしょうか?今回、フルシャの指揮に初めて接してみて、「これは将来、確実にトップ10指に数えられるような大巨匠になる」と確信しました。
 次回、大フィルでフルシャのタクトを見れるかどうかわからない、次回はもしかしたら1万数千円出さないと見られないかも知れない、それなのに空席がこれだけあると少しさみしいですね。
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 前半は12型2管編成でした。河村さんは6月の倉敷でのバーミンガム市響とのラフマニノフの3番の演奏が、それはもう凄まじいものだったので、かなり期待していました。 2階席の2列目の右翼席で、ピアノに隠れてピアニストの顔しか見えない席。実はこの席が曲者だった。ピアノの音が鳴った瞬間、「あれっ?」と思った。別の部屋でピアノが鳴っているような、そんな感覚。徐々に耳がなじんで来ましたが、それでも遠くで鳴っている(間接音しか聞こえない)感じは常にありましたね。このホール、箱がドでかい分、ピアノ・ソロを聴くためには、中央よりに座らないと行けません。ショスタコーヴィチのことも考えて金管の音を直接受けない位置をわざわざ選んだのがいけなかった。 

 それでも、河村さんのピアノ、やはり良かった。音の芯と輪郭がはっきりしていて、ペダルの使い方は、あくまで音の輝きを放つために使うなど、音像がぼやけることがない。河村さんのピアノに付けるフルシャのタクトも見事だし、逆にオーケストラの音に呼応して河村さんの音もシンクロする。先ほど座席のことでネガティブなことを書いたが、この巨大ホールでアルペジオの一つ一つの音(しかも間接音)が極めてクリアに響くというのは凄い技術ですよね。アンコールはスカルラッティのソナタヘ長調だったんですが、これも非常にクリアな音を響かせていました。

 オーケストラがその風が広葉樹を撫でるような音を出すと、呼応して水滴が泉に落ちるようなみずみずしい音で応え、逆にピアノが強い槌音のような打鍵で仕掛けると、オーケストラは硬質なアタックで応える。あるべき音がそこに有り心地よいベートーヴェンの形式感を感じさせると同時に、決して「協奏」的ではないこの曲を一体となって作り上げていく。

 それにしても大フィル、見事な音です。ピアノの序奏に続いてオーケストラが入ってきた瞬間、中欧のオーケストラのような深みのあるしっとりとした弦にはっとする。「今日は大フィルの音が出ている!」そう感じる。
 第2楽章の冒頭の弦のユニゾンも大フィルの弦を堪能。なんといういぶし銀の音!第3楽章はリズムとテンポは、軽快だが音尻までしっかりと鳴らすスタイルは、大フィルと合っている。正統的な王道を行くベートーヴェンの音楽を堪能しました。

 さあ、後半のショスタコーヴィチの10番。今年はこの曲を取り上げるオーケストラが多いようですが、僕も2月に広島交響楽団で聴いていて、今年2回目。高関さんのタクトによる広響の演奏は見事なもので、「現在の大フィルにあれを凌駕するものを期待して良いのか?」若干不安を持っていた。

 編成は16型(1Vn16→2Vn14→Vc10→Va12、上手広報にCb8)でチェロバスを厚めにした3管編成。元々16型4管編成の大フィルとしては中核のレパートリーといっていい。

 まず、フルシャの解釈。この曲にまつわる様々なエピソードに振り回されない、という姿勢は徹底されていたように感じた。殊更おどろおどろしくしたり、音に深い意味を持たせよう、という強い意図では無く、音楽そのものが持つ響きの美しさや不気味さやリズムを浮かび上がらせる。
 最も印象的だったのは、楽譜に書かれているであろう音価を大事にしきちんと伸ばしきる。それによって大フィルの持つ深みのあるサウンドを生かし切ったこと。それはあの高速な第二楽章でも徹底されていて、弦の音を「ザッザッ、ザザザッ」と叩き鳴らすのではなく「ズワッ ズワッ」と音価いっぱいに音尻にアクセントを置く、これを高速テンポで奏でる大フィルも凄いし金管も木管も音の出し入れとバランスが絶妙なセンスを感じた。ここでは打楽器陣がやや置いていかれる感じがあったものの、何かに追い立てられる雰囲気が良く出ていたので結果オーライでしょう。

 第1楽章では、2度上昇の3音+3度上昇の3音の不気味なモチーフから、フレーズの一つ一つに稜線を描くような抑揚をとる。ダイナミクスを極めて広く要求し、一方で最弱音の部分は神経質にならない塩梅を保つ。
 第1楽章のクラリネットがDEsCH音型の変形モチーフに先導される、中間部。もっとも盛り上がる部分を、フルシャはインテンポに、かつ端々まで目の行き届いたタクトで進めた。2月に広響で聴いたのと同じ曲なのか?と思ったほど、この曲で初めて聴く響きに満たされた。まるでバッハの音楽を聴いているような、いや逆に現代音楽のミニマルミュージックのような形式美・様式美がそこにあった。
 スネアが登場して、ヴァイオリン群の高音のユニゾンがフェスティバルホールの空間に濃密に響き渡り、そして震撼した。弦の音でこの巨大ホールが震撼したのを聴いたのは、ホールこけら落とし公演のマーラー『復活』以後、初めてのことでした。あのときはかなり力業で持って行った感があったが、今回の大フィルは軽々と弾いているようだ。打楽器・金管がかなりの音量で鳴っても、それを突き抜けて弦の音が聞こえてきて、高度なバランスを保って響く。
 これほど濃密な響きを出し続ける楽団員は、相当しんどかったのでは?と思いますが、客席から見ていると、奏者の全員が極めて弾きやすそうに弾くんですよ。オーケストラの持っているポテンシャルが引き出されていく気持ちよさに、楽団員が陶酔しているようにも見えました。

 これは一段も二段も違うステージの演奏だと、会場の皆が高揚していく中での、第3楽章。ショスタコーヴィチの思い人(秘書をしていたエリミーラ・ナジーロヴァという女性)のイニシャルが隠されているというフレーズが何度も登場。何度も登場するホルン信号をホルンの高橋さんが表情豊かに吹き分ける。と同時に、この音楽は凍てつくロシアの荒涼たる大地を表しているようにも感じる。
 中間部のおどけたワルツも殊更に皮肉めいたニュアンスを入れることをせず、音楽そのものに語らせる。ホルンの高橋さんの音が神がかっていて、最初は遠くから、もっと遠くからの最弱音、一方で最高潮で放たれたホルン信号の迫力たるや!完璧!ショスタコーヴィチは何を言いたかったのだろうか?と思わずには居られない。思い人への思いを決壊させたかのようにも思えるし、一人孤独に耐える男の叫びにも聞こえる。長く感じるこの楽章が全く長く感じない。

 第4楽章の冒頭は、第3楽章からの連続性、その中に徐々に暖かい空気が感じられる。速いテンポでサクサク進むようで、一つ一つの音符に神経が行き届いている。それがこの曲の隠された狂気を見え隠れさせる。
 途中で空気が一変、すばしっこいテンポになっても弦の豊かな響きはいっそう輝きを増していく。歯ごたえは最後まで衰えなかった。時折、テンポのギアを上げる時に、「もっともっと」とフルシャが腕を振り回すのを見ていると、もう少し切れ味のあるテンポの切り替えを要求していたのかも知れない。2日目公演は、1日目よりもさらに練られた演奏だったようだ。
 この第4楽章なんて弦だけで無く、木管の音までが生気を得て輝きを増している。確かに大フィルのサウンドだけれど、こんなに重厚で輝かしいサウンドが出るものなのか?

 このオケの特質を見抜いて濃密なサウンドを引き出したフルシャが凄いんでしょうが、こうした人が首席客演指揮者でもいいから就いてくれたら、と思ってプロフィールを見たら、なんとあの名門バンベルク交響楽団の常任指揮者に就任予定とか。指揮が終わったらあんなに礼儀正しく初々しさすら感じがさせるのに、やはり若い才能は放ってはおかれないんですね。
 プログラムを見ると、陣容は相変わらず整っておらず、苦しい。今回も27人ものエキストラが乗っている。しかしそれでも大フィルらしさ全開の演奏が展開されたというのは、フルシャのタクトだけでなく、やっぱりこのオーケストラ一流のプロ根性でしょう。本当に最高の音楽をありがとうございました。

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珍言亭ムジクス

こんにちは

私も同日に大阪遠征をしました。2階正面の右側列で、あまりの入りの悪さに驚きました。素晴らしい演奏だっただけに残念です。

ベートーヴェンでは河村さんのクリアな音が素晴らしく、それに呼応する大フィルも見事でした。わけても第2楽章でチェロ・パートの多くをソロにしてピアノとの室内楽的響きを浮かび上がらせたのは秀逸でした。
こういうのは下手をすると奇を衒っただけの空虚なものになりかねませんが、作品の魅力をより伝えるものとなりました。こういうことができるフルシャという人は、相当に可能性がある才人だと感じました。

彼の才能についてはショスタコーヴィチで間違いないことを確認しました。ご指摘の通り、作曲家や作品にまとわりついているものに振り回されず、音楽として捉えたアプローチでした。
そしてそれは成功していたと思います。
また申し訳ないけれど、大フィルの奏者があれだけ素晴らしい演奏をするとは思いませんでした。ご指摘の第3楽章のホルンを始めとして、ほとんど全てがうまくいっていたと思います。
オケの能力の最大限を引き出すことができるのもフルシャの才能でしょう。

こんなコンサートを聴くと、フルシャのバンベルク常任が決まっているのもむべなるかなと思います。
だから日本のオケを頻繁に振るのは期待できそうもありませんが、大フィル再登場とか名フィル初登場とかを期待したくなります。

遠征して大正解の素晴らしい演奏会でした。
by 珍言亭ムジクス (2016-12-12 11:34) 

ヒロノミンV

>珍言亭ムジクスさん
 コメントありがとうございます。
 僕はショスタコーヴィチを回数を聴いているわけでは無いので(その作品群には敬意を惜しまないんですが、あまりの負のエネルギーに体調がしばしばおかしくなるんです)、珍言亭ムジクスさんのコメントで、『やはり凄い演奏だったのだなあ』と、しみじみ反芻しました。
 ブログに肝心なことを書き忘れましたが、ブラームスのピアノ協奏曲のようにチェロのソロも取り入れた室内楽的な解釈は、曲全体のアプローチを生かした、粋なアイデアでした(そういう楽譜なり記録なりがあるのか?気になるところです)。

>また申し訳ないけれど、大フィルの奏者があれだけ素晴らしい演奏をするとは思いませんでした。

 僕も同じ思いです。いい指揮者が振ると、往年の個性的な音が現れ、これほどの完成度の高さを示すと言うことは、まだまだ自力がある証拠ということで安心しました。
 出来ればフルシャや、以前の名古屋フィルのフィッシャーのような優秀な指揮者を常任ポストで呼べるようになれば、現在の楽団員のポテンシャルの高さは証明されていますから、V時回復は間違いないと思うのですが、やはりお金の問題はそうそう解決出来るわけでも無く、歯がゆいところです。

 ところで、珍言亭ムジクスさんは、ブログの更新を停止なさっているのでしょうか。皆さんSNSに移ってしまって、ブログの世界も寂しくなりました。また、コメントいただければ幸いです。
by ヒロノミンV (2016-12-12 20:47) 

ヒロノミンV

>珍言亭ムジクスさん

>ベートーヴェンのピアノ協奏曲4番第2楽章のチェロは楽譜にソロ指定はありませんし、ソロにした演奏は寡聞にして知りません。
 やはりそうですか。フルシャさん、堅実なように見えて、なかなか魅せる指揮者ですね。ますます今後の活躍が楽しみになりました。

 パスワード、お教え下さりありがとうございました。あれだけの数のコンサートの感想を網羅的に書くというのは、確かにご負担だったと思います。
 一部、拝見させていただきました。珍言亭ムジクスさんのブログは色々と(どのコンサートをチョイスなさっておられるのか、も含めて)参考にさせていただいてた部分が多かったので久しぶりに拝見できて嬉しいです。時々こっそりのぞかせていただければと思います。なお、コメントはパスワードを含むものですので、本コメントに再掲のうえ、削除させていただきました。ご理解ください。

珍言亭ムジクスさん wrote
ベートーヴェンのピアノ協奏曲4番第2楽章のチェロは楽譜にソロ指定はありませんし、ソロにした演奏は寡聞にして知りません。
誰かがやっていたとしても、特別な例ではないでしょうか。

ブログは加齢に伴ってだんだんと負担になってきました。そこで記述を減らして自分の記録用にすべく、パスワードを設けました。
パスワードは「  」にしてありますので、どうぞご覧になってください。但し記述を簡略化しており、中にはまったく感想がなかったりしていますので、ご承知おきください。
by ヒロノミンV (2016-12-14 23:27) 

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